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☆  あい らぶ    LAB   ☆

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今だから笑って話せる♪

今だから笑って話せること♪(東京地裁編)


その日私とダーリンは東京地裁に行った。
仕事関連といえばそうであるし、趣味と言えなくもない。
必要なお仕事を終えてまだ時間に余裕があったので
「今日の裁判」を見に行くことにした。
大きな事件でもない限り、くじ引き無しで傍聴席への入場ができる。
1階の受付カウンターで今日のメニューを選ぶ。
10数件の裁判予定が入っている。あれこれ見ながら
「どれにする?」「これなんかよさそうじゃない?」
第○○号法廷「ホームレス殺人事件」
傍聴は自由、となっている。もう開廷の時刻だ。

すでに法廷内には裁判官はじめ、検察官、弁護士、証人、そして
犯人の面々が揃っていた。
慌てて席を探す。ダーリンと二人並ぶことは出来なかったが
私の斜め後ろにダーリンが座った。
事件が殺人事件だけに皆険しい顔をしている、ような気がした。
席に着いて、15分ほどで事件の概要をほぼ把握することが出来た。
うーん、なかなか残虐な事件である。
ニュースではいろいろ聞くが、目の前に当事者たちがいると
緊迫感が違ってくる。

確かに事件そのものは凶悪で忌々しいほどのものであるが
これこそ生きた教材になるというものだ。
どろどろの人間模様、そのとき人は何を感じて犯行に及ぶのか、
私は心理学者でもなんでもないが、非常に興味深いものがある。

裁判が佳境に入った頃、どこからともなく小さな音が聞こえた。
どうも携帯電話の着信音らしい。どこで鳴っているのか。
だいたいこういう場所に携帯電話を持ち込むのが間違いで、
入廷するのであれば当然、電源を切るかマナーモードにするのは
常識中の常識である。
葬式の最中に、喪主の携帯電話が爆音のごとく鳴り響く昨今、
法廷内の電話くらいは当たり前なのか・・・それにしても非常識な音だ。

最初小さかった音がだんだん大きくなってくる。だんだんトーンってやつだな。
私はこのだんだんトーンって言うのがあまり好きではない。最後には
ものすごい音になるからだ。
だんだん周りがざわついてくる。「誰の電話なんだ」
皆、他人の顔を見ながら「誰だ誰だ」と探している。
その間にも音はどんどん大きくなる。

私は大丈夫だ。私じゃない。私のおニューの携帯電話はジーンズの後ろポケット。
入廷する前にちゃんとマナーモードにしておいた。当然だろう。
お尻のポケットに手を触れながら、うん、私のじゃないな、再確認してホッ・・・。
どうも音は私の前の席のジィさんから聞こえている気がする。
着信音は「ミッキーのテーマ♪」だ。うへぇ、私はそんな着信音にしたことないぞ。
それにしてもこのジィさんが、ミッキーのテーマかい?似合わねー。
法廷内にごうごうと鳴り響くミッキーのテーマ。
ジィさん早く止めろよ。そう言おうとした瞬間、ジィさんが私を振り返る。
「ナニナニ・・・私じゃないよ、ジィさんだろ」と思って、私は首を振る。
ジィさんが冷たい目で私を見る。違う、違うってば、私じゃないよ。
私じゃないってばぁ・・・私じゃ、私じゃ、私じゃ・・・・・・・・

私だぁぁぁぁ!!!!!
私は大慌てで、ジィさんの椅子の下においてあった自分のかばんを抱えて
法廷から飛び出した。
席を離れる時、ダーリンをチラッと見た。目が笑ってる。軽くウンとうなづくのが
確認できた。「先出るね」「うん、早く行け」そんな感じ。
カバンに手を突っ込みながら廊下をずんずん走る。ともかくここを離れよう。
やっとの思いで電話を取り出し、ピッピッピッと何度も押して、音を消す。
ふぅぅぅぅぅ、やばいやばい。犯人は私だった。汗ダクダクである(^_^;)アセッ

冷静になって思い返す。
3日前に私は新しい携帯電話を買った。
機種変更ではなく新規。しばらくは2個携帯を持って徐々に新しいのに
移行していこう。友達にはぼちぼち連絡しよう、と思いつつ。
古い方の携帯電話はもう使わないから、処分するまでは、今まで使ってなかった機能や
着信音で遊んでみよう。とりあえず「ミッキーのテーマ♪」だな。
ずっとバイブばっかりだったからバイブを消して着信音量は、だんだんトーンだ。
そしてカバンの中にポンと入れた瞬間にもう古い方の電話のことは忘れてしまっていた。

5分ほどしてダーリンが法廷から出てきた。
きっと私とは関係ない人間のような顔をして腕時計なんぞ眺めながら「あ、時間だ、もう行かなきゃ」
みたいなフリして、あの場を出てきたのだろう。まぁ、気持ちはわかる。
第一声、「アンタ、やってくれるわぁ(≧∇≦)ぶぁっはっはっ!! 」
私はもう早くこの場を去りたい気持ちでいっぱいだった。あそこにいた人たちに二度と顔を
見られてはいけない、きっと指をさされることだろう。早く帰ろう。
私の生涯で最も恥ずかしいできごとかもしれない。

東京地裁の玄関を出る。
玄関前の歩道にはものすごい数の報道陣。いつもテレビで観るあの風景。
「も、もしや・・・・」と思うまもなく、後方から「無罪」だか「全面勝訴」だかの紙を広げながら
走ってくる人の姿が見える。
何か大きな事件の判決日だったのね・・・・良かった。私は一瞬だが翌日の新聞のトップが
頭によぎった。
「法廷でミッキーのテーマ♪鳴り響く、犯人はコイツだ!」と言う記事・・・・。
あぁ、犯罪者にならなくて良かった。
今だから笑って話せるドジ話。あの時は本当に寿命が縮まる思いがした。
もう二度とあんなドジは繰り返すまい・・・・。

完。





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